絵に憑かれた、
九十年
1760年、江戸本所に生まれ、1849年に世を去った。改号すること三十回、引越すこと九十三回。ただひたすらに、絵を描き続けた生涯。
絵に取り憑かれた少年
貸本屋の小僧、版木彫りの徒弟を経て、十九歳で勝川春章に入門。だが既存の流派に収まる男ではなかった。狩野派、土佐派、西洋画――あらゆる技法を貪欲に吸収し、破門されてもなお描き続けた。彼にとって絵とは、生きることそのものだった。
百のかたちがある」
富嶽三十六景
七十歳を超えてから、代表作『富嶽三十六景』を世に出す。輸入されたばかりのベロ藍(プルシアンブルー)を大胆に使い、『神奈川沖浪裏』の大波は、やがて海を越えてゴッホやドビュッシーをも魅了した。老いてなお、彼の筆は最も冴えていた。
画狂老人卍
自らを「画狂老人卍」と号した。死の間際、こう言い残したと伝わる。「あと十年、いや五年生きられれば、本当の絵描きになれたのに」。九十歳。三万点を描いてなお、彼はまだ高みを目指していた。絵に終わりはなかったのだ。